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( A) いつの時期ですか?
日本産婦人科学会の定義では「更年期とは生殖器(性成熟期)と非生殖器(老年期)の間の移行期をいい、卵巣機能が減退し始め、消失するまでの時期」にあたるとされています。一般的には閉経の前後数年間をいいます。
現在、日本人の平均閉経年齢は50・5才ですから、更年期とはその前後5年間、つまり45才頃から55才頃までをいいます。
(B) 更年期障害とはどんな病気?
「更年期に自覚される症状のうち、器質的疾患の裏付けに乏しい不定愁訴を主体とする症候群」と定義されています。ですから、診断にはその人が更年期にあたっているということ、そしてその症状を説明できるその他の病気がないということが大事なことです。例えば、めまいがあるとするとそのめまいの原因がメニエール氏病などの耳鼻科の病気ではないことをはっきりさせることが必要です。
(C) 更年期障害はどうしておこるのでしょう?
更年期に入り、卵巣の機能が衰えてくると卵巣から分泌される女性ホルモン、特に卵胞ホルモン(エストロゲン(E))の分泌量が低下します。この卵胞ホルモンの低下が脳の中の自律神経中枢の働きを失調させます。この自律神経中枢の失調が更年期障害の大きな原因ですが、その他にその人の人格(パーソナリティ)や、心理、社会的背景(家庭の問題、子供の巣立ちなど)なども重要な発症原因となります。
(D) 更年期障害にはどんな症状がありますか?
1.初期にあらわれやすい症状
(1) うつ気分(何となく元気が出ない、今まで興味をもっていた趣味などへの関心がうすれる、親しか った友人とあまり会いたくなくなる、出かけたり人に会うのが何となくおっくう、何ごとにも根気が 続かない、大事な用事を後回しにするなど)
(2) 物忘れ(人の名前や,地名などの固有名詞がわかってはいるがすぐには口に出せない。)
(3) 不眠(寝つきが悪くなる、一旦寝てもすぐ目がさめてしまう。)
2.早い時期にあらわれやすい症状
(1) のぼせ(hot flash)
暑くもないのに体がほてったようにのぼせる。このようなのぼせが一日に何回も繰り返しあらわれる。
(2) 発汗
首や顔にどっと汗をかく。このためしょっちゅうハンカチで顔をふかなければならない。お化粧が不 自由になり、困る人が多い。
(3) 顔のほてり
顔がぽっぽとほてって潮紅する。
(4) 不眠
寝つきが悪い。あるいは寝ついても体が熱くなって夜中に何回も目がさめてしまう。
(5) 動悸
心臓に特に問題がないのに動悸がする。
(6) めまい
一瞬、床がゆれているような感じ、地震がきたかと思うような瞬間的なめまいがする。
(7) 精神的な症状
・何となく憂鬱、あるいは抑うつ気分。
・怒りっぽい(癇しゃく、イライラ)
・気力減退(根気がない、やる気がわかない)
・精神不安定(神経過敏)
・記憶力減退(もの忘れ、すぐ思い出せない)
(8) 身体障害症状
・肩こり、腰痛、関節痛、手のこわばり。
・つかれやすい
・頻尿(トイレが近い)、残尿感など膀胱炎のような症状。
・性交障害性交時に膣からの分泌が少なくなるため、性交痛が出る。
また、日常でも膣の乾燥したような感じ、あるいは入浴や排尿の時、膣の入口や外陰部がしみるなどの症状が出ることもしばしば。卵胞ホルモンの不足で膣や外陰部が萎縮しているサインです。
3.更年期の後半、あるいはそれ以降に出やすい病気
卵胞ホルモン(エストロゲン)の分泌が欠乏したままにしておくと先に述べたいろいろな更年期障害の症状に加え、はっきりとした自覚症状こそあまりないものの全身的な影響があらわれます。
・骨量減少 → 骨粗しょう症
・高脂血症 → 動脈硬化
(E) 更年期障害にはどんな治療法がありますか?
大きく分けると次の2つの方法があります。
1) 心理療法(一般・支持療法)
2) 薬物療法
(1) ホルモン補充療法(HRT)
(2) 抗うつ剤、抗不安剤など
(3) 漢方療法
(F) ホルモン補充療法(HRT)とは?
hormonereplacement therapy の略です。
1.HRTはなぜ効くか?
更年期障害の原因のかなりの部分は卵巣からのホルモンの分泌が減少し、その結果、自律神経が失調するためでです。自律神経の失調を回復するにはホルモン、特に卵胞ホルモン(エストロゲン(E))を補充してあげればよいわけです。これがHRTの原理です。
2.HRTは具体的にどのようにしますか?
基本的にはエストロゲンを補充すれば充分なわけです。しかし、エストロゲンだけを補充すると出血や乳房の張りなど不快な症状を伴います。これらを予防するために黄体ホルモン(プロゲステロン(P))というもう一種の卵巣ホルモンを補充する必要があります。(黄体ホルモンは排卵した後に卵巣から分泌されるホルモンです。)ですからHRTはエストロゲンとプロゲステロンの2種類のホルモンを補充することが基本的な方法です。
1)内服(のみ薬)によるHRTプレマリンという卵胞ホルモンを含んだ錠剤を服用する方法です。黄体ホルモンも同様に内服します。
2)貼り薬(貼布剤)によるHRT内服のかわりに貼り薬(パッチ剤)をおへその横や腰に貼ります。すると貼った皮膚から卵胞ホルモンが放出され、皮膚の内の毛細血管の内へ吸収されて効果をあらわします。
3)パッチ剤によるHRTの具体的方法今、日本で使用可能なパッチ剤には2種類あります。一つは1日毎に貼りかえるタイプと週に2回貼りかえるタイプがあります。どちらのタイプも入浴後におへその横、あるいは腰に500円玉大のパッチ剤を貼っておくだけです。もちろんパッチをはったまま日常生活は普通にできますし、そのまま入浴してもはがれません。そして2日あるいは3日後に同じものをはりかえるのです。
4)出血(生理)をおこさせる方法と出血(生理)を止めてしまう方法の2種類がある。HRTで補充されたホルモンは当然、子宮にも作用します。ですから、HRTによって月経のような出血があります。しかし、既に閉経した婦人はまた生理(出血)があるのはわずらわしいものです。このような人には出血をこさせないで治療する方法が用いられます。
HRT-1 パッチ剤(貼り薬)を2~3日毎に貼りかえながら連続してはりつづけます。また黄体ホルモンの内服薬を1日1錠服用し、これも連続します。すると出血がなく、HRTができます。閉経して2年以上経っている人に向いています。HRT-2
5)HRTは特にどのような症状に効きますか?
HRTでよく改善する症状は顔のほてり(hotflash)、発汗、息切れ、動悸などの血管運動神経症状とよばれる症状がかなり改善します。これに加え、イライラ、不眠、憂うつなど精神症状もかなり軽減します。その結果、身心ともに元気を取り戻し、以前のように元気に日常生活が送れるようになったと感じる人が多いのです。更年期に入り低下していた性欲も向上し、またいわゆる性感も上昇して性生活にも積極的になり、もとの良好な夫婦関係をとりもどせたという方も多いのです。しかし一方HRTは万能な方法ではありません。寝つきが悪い、あるいは眠りが浅い人や手足の冷えなどはHRTでは充分に治療しにくい症状です。このような人には軽い睡眠剤や漢方薬も併用することがあります。
6)HRTがもつその他の効果
(1)骨量の減少を予防する効果閉経後には1年に約1%ずつ骨塩(骨を形成している成分)が減少していきますが、HRTによりその減少をかなりくい止めることが可能です。ですから骨粗しょう症の予防にとても有効です。
(2)コレステロールの上昇を抑える効果更年期になると多くの婦人はコレステロールが上昇することはすでにわかっています。逆に卵胞ホルモンを補充するとこのコレステロールの上昇に歯止めをかけることも可能です。もちろんHRTだけでコレステロールの上昇を完全に止めることはできません。HRTに加え、食事療法や運動も大切です。
(3)アルツハイマー病の予防にも有効か?最近、卵胞ホルモンの補充によりアルツハイマー病の予防にも効果的であるとの多くの報告があります。
7)HRTのデメリット
(1)マイナートラブル更年期障害にHRTはとても効くことは先に述べました。しかしHRTは必ずしも良いことばかりではありません。副作用とはいえないまでもマイナートラブルが伴うことが時にあります。
(2)癌との関連性についてHRTの中心は卵胞ホルモン(エストロゲン)ですが、エストロゲンは子宮や乳房にも細胞を増殖させる作用があります。その結果、子宮体癌や乳癌の原因になるのではないかと懸念されていました。しかし最近の多数の研究では黄体ホルモンを併用すればそのリスクは増加しないとの報告がほぼ定着しているといえるでしょう。
(a) 子宮癌(子宮体癌)プロゲステロンを併用すれば子宮体癌のリスクが増加することはないことは証明されています。
(b) 乳癌 日本人の乳癌の発生は欧米人に比較し少ないのですが、HRTを行ない乳癌が増加するのではないかと懸念されるところです。欧米人を対象とした調査結果では次のようなことがわかっています。
HRTが5年以内であれば乳癌が増加することはない。 HRTを12年以上継続すると乳癌の発生リスクが25%位増加するかもしれない。 しかしHRTの実施の有無にかかわらず定期的な乳房検診が必要ですし、検診をきちんと実施していればHRTをむやみに恐れることはありません。
8)HRTの費用は?
健康保険はききますか?もちろん更年期障害に対して行なうHRTには健康保険がききます。
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